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ようこそ!泳宮へ(48)オトヒメ伝説と大和撫子発祥の里

更新日:2017年5月29日

 私の名は入媛。父は崇神天皇の皇子八坂入彦。とても仲の良い妹の弟媛は、姉の私から見ても目の覚めるような美しさで、心優しく気品漂う娘です。ある日私たちが暮らす久々利の里に、第十二代景行天皇が行幸されるとの前触れが届きました。私は、妹の美しさと気立ての良さが、都にまで届いたのではと、内心思いました。真相はともかく、父は、天皇をお迎えするため、泳宮をお建てになりました。
 早咲きの梅が、春の訪れを告げる頃、平生はのどかな里が大騒ぎとなりました。大勢のお供を引き連れた天皇御一行が、到着されたのです。天皇は、宮廷に池を掘られ、色とりどりに輝く鯉をお放しになりました。元来生き物好きで優しい弟媛は、一目鯉を見たいと、密かに宮中に向かいました。
 鯉を愛でていた天皇のお姿を目にした弟媛は、慌てて身を隠そうとしましたが、気配に気付いた天皇に呼び止められました。とても穏やかで優しい天皇の声色に、弟媛は心を許して、お傍に近づかれたそうです。お二人が、互いに心を寄せ合うことに、果たして時は掛かりませんでした。
 お二人の幸せな日々は、あっという間に過ぎ、天皇が都に帰られる日が近づきました。「弟媛よ、そなた、私と一緒に都に帰ってくれぬか?」天皇のたっての願いに、弟媛は胸がいっぱいになりながらも「私には、入媛という姉がいます。私よりずっと美しく、気品のある方です。どうぞ姉君さまを」と答えたそうです。数日後、天皇から正式なお召しが私のもとに届きました。正直に事を打ち明け、「姉君さまを差し置くことはできませぬ」と涙ながらに訴える妹の優しい心根と天皇のお心に、お応えすることを決意しました。私が幸せになることが、天皇への思いを振り切った妹のためと、誠心誠意天皇にお仕えしました。やがて、七男六女に恵まれ、長子は第十三代成務天皇となられました。
 私が久々利の里を離れる折、山道を彩っていた可憐な撫子の花が弟媛の面影と重なり、一生忘れられない景色となりました。「美濃国可児郡久々利の里には、大層気立ての良い大和撫子と呼ばれるお方がおられるそうな」「遠く美濃の国にリュウグウと呼ばれるお宮があって、オトヒメという名の永遠に美しい姫がおられるそうな」そんな伝説が、いつしか都にまで聞こえてきました。


空想シリーズ5回目となる今回は『日本書紀』景行天皇四年春の条にある泳宮秘話に想いを巡らせてみました。

 可児市長 冨田成輝

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