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ササ薬師

更新日:2013年12月4日
 むかしむかしのことや。尾張の入鹿池がきれるほどのどえらい大雨が降ってな。その辺りの家は大水につかってしまって、そりゃえらいさわぎじゃやったそうな。
 村の者の難儀をお上もほおってはおかれず、そのころにしやあ大そう結構な金子(きんす)をくださった。それを持って、それぞれ近在の地へ移ることになり、宮島一党も美濃の国菅刈の里へ住み着くことになったのやわな。
 「よかった。よかった。おそがかったことははよう忘れて、わしらの家を建てなおさなあかん」
 ある晩のことや。本家のあるじが、何やらうなされての。一心に手をすり合わせている。隣で寝ていたおかみさんがそれに気づいてな。起こして聞いてみると、
「たった今、何やら東の方が明るうなったと思うと、それがだんだん金色に輝き、笹の葉に乗った薬師様がおいでになったのじゃわな」
「そら、どういうわけじゃろうのう?」とおかみさんも不思議に思うておった。
 本家の夫婦が荷物を片付けると、その中から布に包まれた薬師像が出てきた。
「どうしてこのほとけ様がこんなところに?」と親戚が集まって相談し合った。
「ほら、あの大水の中をわれわれみんな助かったちゅうことは、あの薬師様のおかげさ」
「そうじゃ、そうじゃ。ならばこそ、わしらがみんなでしっかりおまつりせにゃあかん」と話は決まってな。それぞれのお宝を出し合って、堂ヶ洞に薬師堂を建立したのじゃわな。
 日を追うにつれ、できものが治ったやら、耳だれがようなったと霊験あらたかなうわさがひろがってな。
「耳だれには、トウキビをきりのように切って、年の数だけ下げておまいりするとよいげな」
「マツカサをつないでそなえると、できものによいそうな」などと言われ、今も線香の煙が絶えんのやわな。