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嫁さがし

更新日:2013年12月4日
 むかし、むかし。この村にまだ乗り物など無い頃の話じゃ。
「生花ちゅうのは、草・花・木を使う。草や花は手でいける。木は足でいけよ」
ちゅうてな、山を歩きからかして、ええ枝ぶりを探したもんじゃ。嫁探しも、これとおんなじこっちゃ。
 舅どのから言われて、おっかあんたは、秋の穫り入れが済むと、ひより下駄に白足袋履いて、白腰巻といういでたちで、息子の嫁を探して歩き回ったそうや。
 中切村の万吉っあのあととりは、ぴかいちのええ男ちゅう評判もんじゃったが、こうしておっかあが歩きからかして見つけたのが、隣村のおみつちゅう娘やった。
 嫁入りの日、婿どのの家では、親類や村の衆が集まって、嫁ごのくるのを今か、今かとまっとったんじゃ。
 そのころは、親父どのと婿どのは、嫁入りの日まで娘の顔を見ることができんことになっておった。
「そりゃ美しい、ええこやでなも」
というおっかあの話を聞いて、はよう見たい心をおさえて待っとったんや。
 ところが、辺りがくろうなって、提灯に火がともるころになっても、かんじんの嫁さんはちょっともこやせん。これはどうしたこっちゃと、大さわぎになってしもうた。婿どのはかわいそうに、ひと夜さで病人のようになってしもうた。翌朝。
「おいでたぞお!」という村の衆の声に、婿どのはびっくりして外へ飛び出すと、こりゃどうや。花嫁衣裳はどろどろになっておる。一行はと見れば、これまたみんながえらいなりじゃ。よく聞けば、
「この村に入る辻で、こちらからの迎えじゃという男しゅうに、提灯持って先に立たれたので、後をついて歩いたが、行けども行けどもご当家は見当たらず、気が付いた時には先達の男しゅうはおらっせんで、『えい、こりゃしもうた。キツネにやられた』と思ったときは、あとのまつりよ」
 ともあれ、むこどの一家は一行をもてなしにかかった。
「おっかあが歩きからかして見つけた日本一の嫁ごじゃ。それが俺の家を一夜さもたずねて歩いてきてくれたんじゃ。なんの、謝ることなぞありゃせん。よかった、よかった」とあわててかための盃をかわしたと。
 それからは、この夫婦、子もたあんともうけて、いつまでもなかよう暮らしたというこっちゃ。