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かみなりっ子

更新日:2013年12月4日
 むかしむかしのことやがの。中切村のお宮様のまわりは、昼でも暗いほどの大きな大きな森やったと。その森に、かみなりのお使いをするという、かみなりっ子というけものが住み着いておったそうで、そりゃあおそがかったもんやと。
 かみなりが鳴り出すと、木から木へと飛び回って大暴れしたので、かみなりが鳴り出すとみんなは、
「そうら、かみなりのお使いが暴れるぞ」
「かみなりっ子がくるで、それそれ早う」と慌てて戸締りしたのやと。
 夏のひどう暑い日やった。黒い雲が北へ北へとつまって、その内雨が降り出し、どえらいかみなりが鳴り出したんやと。
 かみなりっ子は、この時とばかりに、雲に乗って暴れ回っておったそうや。
 そのころ、森のそばに、かみなりがちっともおそがない新助さという人が住んでおらして、外をのぞいて雲の動きを見ておらしたげな。
 その時、ゴロゴロ、ズシーンとすごい音がして、火の玉のようなものが落ちてきた。家の前の畑を、ころころ、ころころ転がって、井戸の中に入ってしまった。
「なんじゃ、ありゃあ」と雨の中を裸足で見にいかした。おそがおそが井戸の中をのぞいてみると、なにやら犬ほどのけものが入っておったげな。
「こりゃ、あの暴れもののかみなりっ子に違いない」と、新助さはちゃっとそばにあった棒で、そのけものをなぐりころいてまったのや。そして、煮て食べてまったのやが、それがまた大変にうまかったげな。
 この新助さは、いろんな物を食べてみる人やったが、あのかみなりっ子のうまさが忘れられんで、かみなりが鳴り出すと、空をあんぬいては落ちてくるのを待っておらした。ところが、息子の嫁さは気の小さい人やったで、かみなりが大嫌いやったのや。そんでも新助さは、
「なんの、かみなりがおそがいもんか。落ちてきたら捕らえやええに。おらあ、待っとるのやで」と、嫁さを叱ってはかみなりの最中に畑仕事にも行かしたってことや。きっと、よどをたらいて待っておらしたのやろうが、二匹目を食べたという話は聞かなんだで、だめやったのやらあずも。
 そやけど、かみなりの時の火の玉は、立木に落ちて大木を台無しにしよるし、思いがけないもんに落ちて火事になったりするで、あんまりええことない。じゃで、新助さのまねだけは、おかまいかのう。