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文弥(ぶんね)の松

更新日:2013年12月4日
 むかし、美濃の国の中切というところに、文弥(ぶんね)というたいそう親孝行な人がおったそうな。この文弥は、病気のおっかあとふたりで住んどったが、えらい酒の好きな人やったそうじゃ。そんでも、家が貧しいうえに、おっかあが病気では薬を買うのがやっとのこと。とても自分の酒までは買えなんだ。
 朝、はようから晩おそうまで働く文弥を見て、おっかあはいつも、
「すまんのう。わしが病気なばっかりに、お前に好きな酒を飲ませてやれんのう」
と言うたが、文弥は、
「おっかあ、気にせんでええぞ。それより、たんと食べて、はよう元気になってくれ」と言うて、それからも自分はろくろく食べんでおっかあには好きなものを食べさせたり、高い薬を買って飲ませたり、一生懸命看病したけんど、そのかいもなく、とうとうおっかあは死んでしもうた。そのうえ、今までの無理がたたったのか、文弥も風邪をひき熱を出して寝込んでしもうた。そして、熱にうなされて、
「ああ、酒がほしい、飲みたい」と言うておると、枕元に白いりっぱなひげのじいさまが現れて、
「文弥よ、お前はそんなに酒が飲みたいか。どうやらお前もながくないようじゃ。お前が死んだら、墓に村の人が酒を持っておまいりに来るようにしてやるから、そのお礼にお前は、酒を持ってきた人の風邪を治してやれよ」と言うと、すうっと消えたそうな。それを聞くと文弥は、
「酒を飲ませてくれるのなら約束する」と言うて、まもなくにっこり笑いながら安らかに死んだんやと。
 村の人は、りっぱな石の墓など建てられんので、墓石の代わりに一本の松を植えてやったそうな。文弥の遺言を信じて、村では風邪をひくととっくりに酒を入れさかずきも持って、その松にお参りにいけば風邪を治ると、えらい評判になって、松の下はとっくりとさかずきだらけになったんやと。
 この松を、村の人たちは『文弥の松』と呼んどったが、今はもう枯れてなくなってしまったんや。
 文弥はがっかりしとるじゃろうよ。