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薬王寺の上り竜と下り竜

更新日:2013年12月4日
 むかし、むかし。帷子ちゅうところであったことや。毎日、毎日、ひでりが続いて、田んぼも畑も、そらもうからからに干しあがってまったやんと。
 そんなもんで、村の人は困ってしもうて、くる日もくる日も薬師堂にこもって、雨乞いのお祈りをしたそうじゃ。
 ある日のこっちゃった。ひとりの年寄りがな、お祈りにくたびれてまって、お堂から出て薬師堂の階段に腰をおろしたげな。なにげなく頭の上を見上げて、高梁に彫られた竜を見とった。
「さすがに名人と言われた林市衛門と玉置吉兵衛が作ったものだけあるのう。みごとなもんじゃ」とみとれておると、下り竜の舌がペロペロと動いたのやと。びっくりして立ち上がると、こんどは上り竜の尾がびりびりと動きよった。そんで思わず
「竜よ、心あるなら聞いとくれ。この村には、もう1か月も雨が降らんのや。なんもかんもすっかり枯れてしまいそうじゃ。奥の池も干上がってしもうた。おれんた百姓がいちばん困っとるんじゃ。お前がほんとうに水をよぶことができるんなら、一雨恵んでくだされよ。」と一心に手を合わせんさったと。
 そのとき、ふしぎなことがおこったんや。にわかに黒雲がひろがってな。稲妻が光り、雷がなり、ものすごい雨が降り出したんじゃ。降って降って、降り続いたちゅうこっちゃ。あんまり降りつづいたもんで、こんどは大水がでよって、あぶななってきた。そこでその年寄りは、また薬師堂へ行って、
「いくら雨がほしいたって、池があふれ堤が切れてしまってはもともこもないわな。」とえらい怒ってなも、稲妻の光る空に向かって弓で矢を放ったんじゃ。
 そうするとな、たちまち雷鳴はおさまって、西の方から明るうなってきたんや。そして、水のひいた田んぼや畑はだんだん生き生きしてきたそうや。
 村の衆はよろこんで薬師堂にお礼にござったわな。そして、ふと高梁の竜を見上げるとな、不思議なことに下り竜の片目がつぶれとったちゅうことや。