更新日:2018年5月24日
我田の大岩
むかしむかし。久々利の我田から御嵩へいく道があったがのう。
峠をすこし下ったところに、落武者がかくれ住んでおったという洞があってな。そこには、大きな大きな木がしげって、昼でも暗いほどやってなあ。ひんやりとしめったつめたい風が、いつもふいておって、かみの毛がぞうっとさか立つようで、だれもどうにもその洞には、はいっていけなんだそうや。そのうえ、この洞あたりには、白へびがうじょうじょとおったのやと。旅の人も、この道は通らなならんし、ヘビはおそがいしで、そりゃあなんぎしたのやと。
ある日、ほこりにまみれてやってきたひとりの旅人が、峠の大岩までくると、どっかとこしをおろした。
「あーあ、気の重いしごとやが、うまくいくやろうかなあ。この道もここをすぎると、何やらおそがいところがあるげなし。」
と、いいながら べんとうをとりだした。そして、タケづつの水をのんだり、ごそごそやって、手をのばすと、べんとうがない。ついいまさっきにおいたばかりのにぎりめしがきえてしまったのじゃ。
「さては、この大岩がくったか。」
と、はら立ちまぎれにたたいてみたが、じぶんの手がいたいだけや。
「ええい。こうなったらさっさといくか。」
と、荒々しい足取りで、目的地へと、峠を下っていたのや。
さいわい、何のこともなく、めあての家へ着いたが、その家では、待っていたかのように、もてなされた。それに、しごとも思いがけなくうまくまとまり、大よろこびしたげなわ。
けれど、どう考えてもふしぎなことは、ようけのヘビがおって、まったくおそがいところやと、聞かされておった峠道を、あんなにらくらくとこえることができたことや。
そのことが、みんなにつたわって、
「我田の大岩に、おべんとうをあげると、しごとがうまくいくよ。」
「あそこに、おそなえ物をすると、ヘビに、なんぎせんよ。」
「こまったことがあったら、我田の大岩に、お願いするがええわ。」
「そうやそうや。あの我田の大岩は、願いごとのかなう岩やぞ。」
と、けっこうなうわさがたって、それをたよりにでかけていく人も、多かったそうや。
なんでも、岩にむきあって願いごとをしているうちに、おそなえした物がのうなっていたら、その願いごとがはかなえてもらえるのやと。そうやもんで、なんぞことあると、
「ちょっと、大岩さままでいってくるで。」
と、丸盆にお洗米を入れて、ふろしきにつつむと、我田の大岩へといくのや。
そうやが、ちょっと横をむいとるうちに、おそなえした物がのうなるやんて、どう考えてもふしぎやな。それに、うじょうじょとおったヘビのすがたが、ぱったりとみえなくなって、旅がらくになったこともふしぎや。
むかしから、ヘビは神さまのおつかいをするっていうが、やっぱりそうかのう。
まあ、いろいろな願いをかなえてくださる「大岩なら、わたしもちょっと いってこようかしらん。いっぱいお願いしたいことがあるで・・・・・。