更新日:2018年5月24日
うそこき与太郎
むかし、むかし。久々利の大家さんに、うそのうまい与太郎ちゅう男しゅうがおったげな。
ある日のこと、与太郎は、大家さんのお使いで、隣り村までいった。
その帰り道。どこかでコメをぬすんで、そのコメをかんでは、大
きなマツの木の根元にはき出し、かんでははき出したんやと。ちょうど、トリのふんのようにな。
その次の日。与太郎は、だんなさまに、こういったのや。
「だんなさま、だんなさま。きのう隣り村へお使いにいきましたら、街道ぞいの大きなマツの木に、ツルが、巣を作っておりましたんな。見にいきゃあすなら、ご案内しますに。」
「そうか。そりゃあめずらしい。見につれていってくれ。」
と、だんなさまは、たいそうめずらしがられて、さっそく与太郎につれられて、そのマツの木の下まで、いかれたのじゃ。
「これ、このとおり。ツルのふんがいっぱい落ちておりまする。わたしが、これからマツの木に登って、ツルのたまごをとってまいりますで。どうぞ、下でまっておってちょうだあ。」
というが早いか、マツの木に登っていった。
けれど、ツルの巣なんか、あるはずがない。と、急に、
「だんなさま、だんなさま。大へんやわ。ツルのたまごどころじゃ
ないは。久々利のうちの方が大火事や!」
と、与太郎は、大声をだした。
「そうか、そりゃ大へんや。こうしてはおれんわ。すぐおりてこいよ。」
といって、だんなさまは大あわてで、うちの方へ帰ったそうな。
うちのそばまできてみると、何のことはないまったくの大うそ。
さすがのだんなさまも、こんどというこんどは、たいへん腹を立てられたのじゃ。
そして、近所の人たちをたのんで、与太郎をグルグルと、す巻きにして、かんかん照りの暑い田んぼ道へ、ほうりだしてしまわれた。
「このどうそこきめ! 二、三日こうしてお天道さまにあぶられておるといい。こんがりやけたころ、こんどは、大川に放りこんでやるわ。」
といいすてて、帰ってしまわれた。
そのあくる日。うそこき与太郎も、さすがに苦しくて、もだえていた。そのとき、ちょうど西の方から、ひとりの女がツエをついて、こちらに近ずいてくるのがみえた。ようくみると、目の不自由なあんまさんやった。
与太郎が、そこにいるこをとは知らず、あんまさんは、コツンとけつまずいた。
「このやろう。けつまずきゃあがって、気をつけろ!」
「すみません。わたしは目が不自由でございます。どうぞ、おゆるしください。」
と、なくようにしてあやまったので与太郎は急に声をやさしくして、
「そうか、目がみえんのか。不自由なことやのう。そんならいいことを教えてやろうか。わしもじつのところ目がわるくて困っておったが、こうしてす巻きになって、日照りの道にねておったら、よくなったわな。おまえさまもそうすると、きっとよくなるぞ。早よう、早よう。」
「ありがとうございます。そんなら、そうさせてもらいます。」
あんまさんは、手さぐりで、す巻きをといて、こんどは、自分がすの中に入りこんだ。
「こうしておるとな、二、三日もすれば、きっとよくなる。そうしたら、おれがほどきにきてやるわ。」
と、あんまさんをす巻きにして、与太郎は、どこかへいってしまったのや。
二、三日すると、おおぜいの人がきて、
「やい、このどうそこきめ! きょうは大川へ放りこんでやるぞ。」
といって、中も見ずにかつぎ始めた。
「わたしは、うそこきではありません。目の不自由なあんまでございます。どうぞ、お助けください・・・・。」
ところが、男しゅうたちは、
「なにをぬかす。目の不自由なあんまだなんていっても、もうおまえのうそには、だまされんぞ!」
といって、おおぜいでかついでいって、大川に、放りこんでしまったげな。
このようすを、与太郎は、近くの山で、にんまりとして見ていたのじゃ。
しばらくして、与太郎は、手に魚のみやげを持って、大家さんを訪ずれて、さもたのしそうに話しだした。
「だんなさま、だんなさま。この間は、わたしを大川に放りこまれましたな。おかげさまで、ええとこへいってこれたわな。流れ流 れと、海の底までいったら、話にきいとった竜宮城が、ほんとうにあってなも。そりゃきれいなとこやったんな。ようきてくださったちゅうて、タイやヒラメのおどりやら、めずらしいごちそうづくめで、その上、このとおり、おみやげまでもらってきたとこやわな。」
と、えびす顔をした。
「あんまりいいとこだから、だんなさまも、ぜひいちど、いってもらおうと思って、きょうは、わざわざおうかがいしたわな。」
「そうか、そんなにいいところか、そんなら、わしをそこへ案内してくれんか。」
「そりゃもう、よろこんでご案内しますわ。」
と、いって、ふたりでだんだん川を下って海の方へいった。
ちょうど、大きな岩のそばまできたとき、
「だんなさま、竜宮はこの下のほうでございます。」
「どれどれ、このあたりかな?」
と、だんなさまがずっとのぞきこんでおるところを、うしろから「ドーン」と、つき落としてしまったちゅうこっちゃ。
また、またしばらくして与太郎は、大家の奥さまのところへきて、
「このあいだ、だんなさまをご案内して、竜宮へいってきましたら、あんまりいいところなので、だんなさまは、もう帰りたくない。ずうっと、ここにおるで、久々利の財産は、おまえにやるから、奥さまとふたりで、ええふうにやってくれ、ちゅうことやったんな。」
というた。けれども、こんなひどいうそをこいて、ひとをあやめるような悪人によいことがあろうはずがない。なんでもその後、長い間病の床につき、あわれな与太郎やったそうな。